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先月に琵琶湖で変なシジミ類が捕れ、気になって色々と調べてみました。
その際に有用な情報をご教示下さった方は、大人の事情でイニシャルも出せませんが、
ここに記して感謝の意を表します。以下に記すことは、科学的根拠に乏しいこともあり、
少々問題も残りますが、ほとんど周知されていないため、啓発の意味で記事にしました。

琵琶湖淀川水系(汽水域を除く)にシジミ科は3種類が知られています。
●セタシジミ Corbicula sandai Reinhardt, 1878
 琵琶湖淀川水系固有種。過去に各地へ移植されたが、繁殖は難しいようです。
●マシジミ Corbicula leana Prime, 1864
 日本全国にいる広域分布種。琵琶湖の個体群は他産地よりも大きいものが多い。
●タイワンシジミ種群 Corbicula fluminea species complex Prime, 1774
 要注意外来生物。分類学的に定説が無い。マシジミを含めて1種とする説もある。

私にとってセタシジミは、かつて名古屋のスーパーでも見かけ、食べたこともあります。
滋賀県では今でも売られている、水産上重要なシジミ類ですが、漁獲量は下降線。
そのため滋賀県として、セタシジミを種苗生産し、放流を行っているようです。

序論はこのくらいにして、写真左は典型的とも言えるセタシジミ(老成でやや黒色化)です。
右はタイワンシジミ種群です。中央は殻幅がどうのとか、難しい専門用語を書かなくても、
両者の中間的な形態に見えませんか。雑種だと思います。遺伝的精査を行っていないため、
一応、疑問符を付けましたが、形態からセタシジミ、マシジミ、タイワンシジミ種群、
この何れでも無いと思われます。雑種と見なすのが、最も当てはまっていると思います。

こちらを簡単に言うと、セタシジミとタイワンシジミ種群は、雑種化しているのです。
これとは別の研究でも、セタシジミへの遺伝子汚染は、確認されているそうです。
タイワンシジミ種群は、2008~2009年に琵琶湖10/53地点で、確認されています。
岸近くの浅場は、かつてマシジミが多かったですが、現在ではタイワンシジミ種群が蔓延。
沖合の深場は、まだセタシジミが多いようですが、その中間域は雑種が多いようです。
進行すれば、沖合の深場のセタシジミも、遠くないうちに、全て雑種化することでしょう。

更に、セタシジミの種苗生産されている個体には、雑種と思われるものが多いそうです。
これは外来生物を、県費を使って増殖放流し、汚染を拡大させている、恐れがあります。
増殖放流するほど、セタシジミ絶滅へのカウントダウンを、早めていることになるのです。
雑種も美味しいようで、普通の人は区別できないため、どうでも良いのかもね(はぁ~)。

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写真は2010年6月13日に、mさんと琵琶湖南湖(東岸)で、長いたも網で採集しました。
左は典型的なセタシジミと言って良いと思います。このときはマシジミも捕れました。
また、琵琶湖固有種のビワコドブシジミと、カワムラマメシジミも捕れて、
死殻ながらビワコミズシタダミも確認。非常に琵琶湖度の高い場所と思われました。

そして3年余り経った2013年8月25日に、kさんとたも網を持って、素潜りで採集しました。
本気で採集するも、ビワコドブシジミと、カワムラマメシジミ、ビワコミズシタダミは、
貝殻すら確認できず。それに変わって、見慣れないシジミ類ばかりが捕れました。
その中の1つが写真1枚目の中央(雑種?)です。典型的なセタシジミは捕れませんでした。
推察すると、3年余りでタイワンシジミ種群の侵入によって、セタシジミは雑種化し、
タイワンシジミ種群が、他の二枚貝の居場所を、奪った疑いが強いです。

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写真は琵琶湖南湖の3箇所で捕った個体です。セタシジミは捕れませんでした。
セタシジミ漁が行われている場所にも潜りましたが、見られるのは変な個体ばかりでした。
セタシジミで画像検索すると、近年に公開されたと思われる画像ほど、
殻高の低い怪しい個体が多い感じです。特に瀬田川・南湖産は雑種化が進んでいそうです。

写真一番右の個体(不明)は、典型的なタイワンシジミ種群もいる中で、それに混じって、
まとまって見られたため、未報告の外来二枚貝か、何らかの複雑な雑種の疑いもあります。
私は初めて捕りました。特徴は、殻表が緑褐色、内面は殻縁部は明色、それ以外は暗色。
殻高が低く横長。殻頂付近は盛り上がらず、輪肋が磨耗して、目立たない。小型が多い。
もしかすると、マシジミやタイワンシジミ種群の表現型のクローンかもしれませんが不明。

セタシジミとタイワンシジミ種群は、ニッポンバラタナゴとタイリクバラタナゴの現象に、
良く似ていますが、ニッポンバタラナゴは西日本という広域分布なため、
仮に10水域に生息していて、1水域が雑種化しても、9水域がまだ残っています。
それによって絶滅の回避は可能です。セタシジミは琵琶湖という1水域のみなため、
雑種化が始まれば、それは絶滅へ直結します。タイワンシジミ種群の完全な駆除は、
難しいですし、今出来ることは、雑種化を遅らせ、解決策を考えるしかありません。

セタシジミというブランド力は落ちるでしょうが、遺伝子汚染をもっと広く知ってもらい、
雑種の放流を直ちに止め、この問題へ真剣に取り組む必要があると思います。
ちょっと真面目に書いちゃった(笑)。琵琶湖病の私は、へんてこなシジミの味噌汁より、
セタシジミの味噌汁が食べたいです。本当はヤマトシジミの方が好きですけどね(爆)。

コメント一覧

サレンダー メール - 2013/09/07 (土) 20:16 edit

こんばんは。

種苗の遺伝子を調べて雑種の放流を止めるべきですよね。

本来在来種の放流も止めるべきなのですが、一切の放流をするなと言って聞く耳もつかどうかですよね。

西村 メール - 2013/09/08 (日) 20:18 edit

サレンダーさん。コメントありがとうございます。
種苗の遺伝子は調べる必要はありますが、親貝を全て調べることは難しいでしょうね。
これまで放流して来た人を中心に、「この放流は良くて、この放流は良くない」なんて、
ルール作りをしていますが、普通の人にそれを判断するのは、はっきり言って無理です。
そのため、これくらいならいいだろうと放流して、結果的に最悪な状態になるわけですね。

サレンダー メール - 2013/09/12 (木) 20:05 edit

こんばんは。

福島から帰ってきました。

まず放流に頼らなければ資源量に問題が出るかが疑問ですし、放流抜きで資源量に問題の出る漁獲(乱獲)を学者さん達が許すのもいけないと思いますけど。

今日のあまちゃんで八戸のウニ放流しちゃいましたし、放流=問題のある行為 との認識を持ってもらうのが遠のいた気がします。

まだまだこのサイトの存在は重要ですよ。

西村 メール - 2013/09/15 (日) 21:05 edit

サレンダーさん。私も同じような意見です。ウニ放流は私も見ていましたが、
テレビ画面に向かって「ぐらぁ~っ何やっとんだ」と口走っていました(笑)。
ただ、あれは実際に行われたものを、そのままドラマ内でも再現したようなのと、
震災後という背景から、放流問題にまで気を回す、余裕が無かったと信じたいです。

beachmollusc メール URL - 2014/08/19 (火) 03:04 edit

セタシジミとタイワンシジミ種群の交雑の可能性について話題が出ているのでコメントします。

タイワンシジミ種群(マシジミを含む)の繁殖方法が雄性単為生殖であって、染色体数が3倍体(セタシジミは雌雄異体で2倍体)が基本であり、体内自家受精で仔貝まで保育して放出する(ただし、放卵・放精もやることがある)ことから、種間交雑が起こるとは考えにくいでしょう。

そもそも、琵琶湖で同所的にマシジミとセタシジミが生息していた、つまり別種として存在していたことは、種間隔離が確立されていた証拠です。

この写真のマシジミとされているものは、カネツケ型で薄い紫色が内面に見られる変異個体ですね。

先月、長浜市の農業水路で採集して見た淡水シジミ類には3つの型が見られました。私のブログに記録しています。

セタシジミの殻の古い標本が東北大の博物館にありますが、個体変異の幅はかなりのものです。典型的な「バチ型」だけでなく、同じ集団内で輪郭の変異が見られます。色彩の変異も激しいのがセタシジミの特徴のようです。

西村 メール - 2014/08/21 (木) 23:52 edit

beachmolluscさん。一昨日から体調不良で、ご返信が遅くなってすみません。6年余り前にはハマグリの同定でお世話になりました。その節はありがとうございました。

>タイワンシジミ種群(マシジミを含む)の繁殖方法が雄性単為生殖であって、染色体数が3倍体(セタシジミは雌雄異体で2倍体)が基本であり、体内自家受精で仔貝まで保育して放出する(ただし、放卵・放精もやることがある)ことから、種間交雑が起こるとは考えにくいでしょう。

私もそのような考えは持ちました。 http://kaken.nii.ac.jp/d/p/18780152.ja.html 「雄性生殖を行うタイワンシジミ種群から両性生殖を行うセタシジミに,生殖様式の違いを超えて,タイワンシジミ種群のミトコンドリアDNAが水平的に移動したことを示唆している。」また、記事にある有用な情報をご教示下さった方によると、沿岸域には黄色いカネツケ型が蔓延し、沿岸域や種苗生産個体にはどちらか区別できない個体が多く、DNA解析でもそうなっているそうです。なお、この結果は口頭発表されましたが論文化はされないそうです。

>そもそも、琵琶湖で同所的にマシジミとセタシジミが生息していた、つまり別種として存在していたことは、種間隔離が確立されていた証拠です。

そうだと思います。そのためタイワンシジミ種群が特殊なのだと捉えています。

>この写真のマシジミとされているものは、カネツケ型で薄い紫色が内面に見られる変異個体ですね。

3枚目の画像の一番左ですね。これは琵琶湖の深場に昔から多い、マシジミの老成個体だと思っています。他の地方ではあまり見られないタイプなのかもしれません。日本産淡水貝類図鑑1によく似た写真があります。

>先月、長浜市の農業水路で採集して見た淡水シジミ類には3つの型が見られました。私のブログに記録しています。

拝見しました。左のお二方とは某研究会で面識があります。

>セタシジミの殻の古い標本が東北大の博物館にありますが、個体変異の幅はかなりのものです。典型的な「バチ型」だけでなく、同じ集団内で輪郭の変異が見られます。色彩の変異も激しいのがセタシジミの特徴のようです。

そうでしょうね。琵琶湖は多様な環境があるため、捕る場所によっても違うでしょうね。たいていセタシジミは漁や採集がしやすい、深場の平坦な砂泥で捕った個体でしょうから、我々のように浅場(7m以下)で潜って、砂泥のみならず水草帯や礫底(石をどけた下にいることも)で捕った個体とは、少し違うかもしれません。

他にも写真を撮っていますので、何かのご参考までに、後でおこぼれ掲示板に貼っておきます。ご意見ありがとうございました。