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ヌマエビの記事に、にいつまさん(2013/01/11)から、ヌカエビというご指摘を頂きました。
写真は同じ個体です。調べれば調べるほど、厄介な状態みたいで、しんどかったです。
これがヌマエビかヌカエビか、それも大事ですが、ここでは考察を楽しみたいと思います。
オガサワラヌマエビのことは、異所的な別種なため、ここでは考えないことにします。

日本産ヌマエビの地理的分布と種内分化に関する遺伝学的研究(1994年)
↑まとめを抜粋「日本産ヌマエビは遺伝的に均一な集団として存在するのではなく、
遺伝的および形態的に分化した北部、中部、南部の3大グループに分けられ、
これらの3大グループは亜種レベル以上に分化した10の地域集団から構成され、
さらにそれぞれの地域集団は各地に独立した繁殖集団より構成される
という階層構造を持つことが示された。」とあります。

ここで言う3大グループとは、種を指していると思われます。図4を見て下さい。
すなわち、ヌマエビ北部種(2亜種)、ヌマエビ中部種(7亜種)、ヌマエビ南部種(亜種なし)。
2年後に同じ方が出された論文↓に名称が記されていました。
Genetic and morphological analysis of...omitted(1996年)
ヌマエビ属
├ヌマエビ北部種
│├日本海集団
│└太平洋集団
├ヌマエビ中部種
│├関東集団
│├北陸集団
│├山陰集団
│├周枳集団
│├東海集団
│├高岡集団
│└琵琶湖集団
└ヌマエビ南部種
日本産(小笠原除く)ヌマエビ属は、3種9集団(亜種)に相当するものがいるようです。

このため旧来のヌマエビ Paratya compressa compressa
ヌカエビ P. c. improvisa という1種2亜種の関係では示せず、
ヌマエビ南部種はヌマエビ P. compressa とし、
ヌマエビ北部種はヌカエビ P. improvisa とし、
2種として扱うことが増えたのだと思います。分布的に重なるところがあるため、
同所的な亜種関係はありえず、形態的差異が小さくても、2種とするのは当然ですね。

そして日本産(小笠原除く)ヌマエビ属を、ヌマエビとヌカエビという2種にする場合は、
ヌマエビ中部種は別種だが、遺伝的にどちらかといえば、ヌカエビに近縁なため、
第3の種として P. sp. とはせず、ヌカエビにまとめてしまっているのでしょう。

それでは3種いることが判明しているのに、なぜ20年近く経っても混乱しているのか。
おそらくヌマエビ中部種が、遺伝的に判別可能でも、分類学的には形態的差異が必要で、
ヌマエビとヌカエビの模式標本を検証できたとしても、3種のうちどれに該当するか、
判別が難しくて、放置されているのが現状かなと想像します。分類学あるあるですね。

さて、私の見解が正しければ、冒頭のこれが最も的に近いのは、
ヌマエビ中部種琵琶湖集団 P. sp. subsp. ということです。

ちなみに、琵琶湖でヌカエビの記録は見たことがありません。おそらく無いでしょう。
琵琶湖生物多様性画像データベースでもヌマエビだけ記されています。
また、滋賀県RDB(2010年版)では、ヌマエビ P. c. compressa とし、
亜種としてヌカエビ P. c. improvisa という旧来の説明が書かれています。

これは20年近く前の論文を知らないのでしょうか。この2つを書かれた西野先生は、
面識があり、論文もいつくか拝読しましたが、普通に考えると、ありえないです。
そう考えると、分類学的にカオスなため、無難に旧来の分類に、従ったのだと想像します。
学名の変更が記された論文はないはずで、旧来の分類は今なお生き続けているため、
学名の未確定な情報の扱いを無視するのは、ある意味ではこれも正しいと思います。

結局は何に従うかです。その判断は個々にあります。
私はヌマエビ中部種琵琶湖集団 P. sp. subsp. と暫定結論することにしました。
これはヌカエビとご指摘下さった、にいつまさんが間違っているとかではありません。
現段階では正解が複数あり、様々なことを鑑みて、その選択の1つとして判断しました。

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これは1枚目の写真と同じ場所で、同じ日に捕れたカワリヌマエビ属の一種です。
先日もエビ2種を県指定外来種に追加へという記事がありました。
「琵琶湖在来のヌマエビ」と記されていますね。わかりやすくていいなぁ…。

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ヤマトヌマエビの記事で、たぶんミゾレヌマエビと書いた個体です。
今見ると、どこがミゾレだと、言いたくなります。気にはなっていたんですと言い訳。
これはヌマエビ南部種だと思います。ヌマエビ記事の訂正と、新記事を近々に作ります。
本来であれば専門屋さんに、同定依頼をお願して、客観的な判断を仰ぐところですが、
淡水甲殻類屋さんに、知り合いがほとんどいないことに気付きました。。。疲れました。
(ヌマエビ類の考察2へつづく)

コメント一覧

かっちゃん URL - 2013/01/20 (日) 04:12 edit

こんにちは、かっちゃんです。

ヌマエビの亜種にヌカエビってのが居る・・・程度の認識はありましたが、けっこう複雑な話があったんですね。
エビは子供の頃からなんとなく好きな生き物で、大人になってから水槽を立ち上げたのもエビが発端でした。
水槽のなかのエビを眺めていると何となく和むのですが、それ以上の好奇心は芽生えず、結局ヌマエビかヌカエビのどっちかだろうくらいで終わっていました。
(ここまで書いてから過去記事へのリンクに気が付きました・笑)

すごく難しい話になりそうですね。
夜更かしの頭ではついていけないので、足跡だけ記して退散します。

おいかわ丸 - 2013/01/20 (日) 12:12 edit

詳細な解説、大変勉強になりました。
淡水エビはちょっと腰が引けてるところがありまして、
地元のも今後きちんと調べてみたいと思っています。
まずは文献と標本の整理整頓から・・

white-wings - 2013/01/20 (日) 19:39 edit

大変勉強になりマシた。
分類学のある意味での限界なのでしょうね…。
普通の人(って言い方は問題があるが)からすると、白黒ガッキリしない学問は奇妙に見えるでしょう。
法則だとか定義があるわけでも無いですからね…。

にいつま - 2013/01/21 (月) 09:19 edit

採ってきたヌカエビを水域によって分けていますが、
1年飼っても限りなく透明のままで小型のもの、
ヌマエビに近いような輪郭と色彩を持つもの、
脱皮のたびにくるくる色が変わるもの、と色々・・・
お前ら、同じ種類なのか、と。

私は福島県在住なもので、西日本の淡水エビ類の豊富さを
いつもうらやましく思っています。
こちらは、せいぜいヌカエビとスジエビぐらいです。
シナヌマエビにはまだお目にかかっておりません。

サレンダー メール - 2013/01/21 (月) 20:33 edit

こんばんは。

一応東日本で見られるヌマエビ類はヌカエビと認識してたのですが、あってて良かったと思ってます。

ただカワリヌマエビと見分けが付くかというと疑問です・・・

maiky - 2013/01/21 (月) 21:27 edit

こんばんは。
ヌマエビ類も難解ですね。わかりやすい解説ありがとうございます。
基準をどこに置くか、自分自身の判断基準を明確に
素人にもわかりやすく解説してくれる西村さんは凄いと思います。
えびアレルギー持ちには食べれないし興味が薄いのですが(笑

西村 メール - 2013/01/21 (月) 22:35 edit

コメントありがとうございます。

かっちゃんさん。過去記事のリンクでほぼ同じ内容が(笑)。ヌマエビとヌカエビの2種
しかいない、からスタートすると、たぶんこの話題は、ややこしくなるのかなと思います。

おいかわ丸さん。文献と標本は大事ですね。もうちょっと調べてみました。
ヌマエビ南部種ですが、両側回遊で西日本にしかいないのは、黒潮から考えても、
不思議だと思っていたのですが http://www.esj.ne.jp/meeting/abst/56/F2-05.html
遺伝的に日本列島集団と琉球列島集団に分けられるようです。更にややこしい。

white-wingsさん。分類に興味の無い方は、種と亜種の混同と、生き物には、
必ずカタカタのすっきりした名前があるという、思い込みが大きい気がします。
無理にこの形にすることで、余計に分かり難くなって、混乱させている感じですね。
チリメンカワニナには、最低でもA型とB型がいることが、分かっており、
この2種(型は便宜上)の同定は、胎殻(雌が持つ胎児)を確認しないといけません。
しかし、模式標本は親の殻だけで、胎殻が残っておらず、どちらかわからないため、
ストップしているようです。本来であればチリメンぽい個体が捕れれば、
チリメンカワニナA型、チリメンカワニナ種群、カワニナ亜属の一種などと、
書かないと正確ではないのですが、カタカナ信仰者が多くて、チリメンカワニナに…。

にいつまさん。ご指摘を頂いて、調べるきっかけに成りました。感謝しています。
シナヌマエビですが、過去に少し触れたことがあります。
http://tansuigyo.maxs.jp/m/diary.cgi?no=506
http://tansuigyo.maxs.jp/m/diary.cgi?mode=comment&no=213#comment
"いわゆるシナヌマエビ"は、シナヌマエビとは言えないようです。
スジエビも遺伝的に複数あるようで、形態だと琵琶湖産は特殊なようです。
そのため、スジエビ種群が的の中心に近い、書き方かもしれません。
ただ、飼育を楽しむ上で、種類の厳密さは、不要だと思っています。

(2000文字規制に引っ掛かったので2つに分けます)

西村 メール - 2013/01/21 (月) 22:35 edit

(続き)

サレンダーさん。うーん。一番コメントに突っ込みどころが多いかも。
私の一連の見解からだと、東日本で見られるヌマエビ類は、ヌカエビではなく、
ヌマエビ北部種で、関東はヌマエビ中部種です。そこから更に亜種に分かれます。
どうしてもヌマエビとヌカエビの2分したい場合にしても、東日本には両方います。
それとカワリヌマエビという種類は日本にはいません。カワリヌマエビ属です。
あぁ今目標が見つかりました。サレンダーさんにもわかる記事を目指します…。

maikyさん。わかりやすくしたつもりですが、何としてでも最高にわかりやすい、
カタカナの土俵に引っ張り込もうとされると、ルールから違うので無理ですね。
一般的に何々型や何々グループとか、よくわからないのが出てくると、
自動的にカタカナ和名に、脳内変換されている、仕組みがあるようです。
ネット情報には、そうした変換された、ある意味では間違った情報が、
大多数には受け入れやすく、そのちぐはぐが余計に混乱を生んでいる感じです。

まとめると、真面目な記事には、反響を頂けるのだと、思った次第です(笑)。
私的に面白い、中二病ネタはコメ0で、同じ低次元だと思われたくないのかな…。
これからも緩急織り交ぜますので、宜しくお願い致します。

おいかわ丸 - 2013/01/22 (火) 00:37 edit

西村さん、補足のご教示もありがとうございました。
エビの勉強もっとしないといけない気がしてきました・・。
中二病ネタは実は超コメントしたかったのですが、色々
時期が悪くて・・

西村 メール - 2013/01/23 (水) 00:41 edit

おいかわ丸さん。そのコメントを頂けただけで救われました。
真面目に中二病ネタを書いたら、反響あるかな(笑)。

サレンダー メール - 2013/01/23 (水) 20:33 edit

こんばんは。

私がきちんと論文と西村さんの記事を読んでない証拠ですので、すみません。言い訳になりますが今ちょっと忙しいんです。

カワリヌマエビではなくカワリヌマエビ属と書かなければいけなかったですね。

西村 メール - 2013/01/24 (木) 21:15 edit

サレンダーさん。いえいえ。私の書き方も、文章を短くするため、
割愛したところが多くて、説明不足なところもありました。

カワリヌマエビ属は、分類群(この場合は属)であって、種類を指していません。
そのため「カワリヌマエビ属の一種」です。ネットでは「シナヌマエビ」という
表記も見られますか、シナヌマエビは1亜種を限定した書き方です。
カワリヌマエビ属には20種類くらいはいると聞いているのと、日本では交雑しているため、
普通に考えて、これはシナヌマエビです!なんて、同定することは難しいでしょう。

それをわかった上で「シナヌマエビ類」という表記もネットでは見かけます。
シナヌマエビはミナミヌマエビ種の亜種とされるため、たとえ類を付けたとしても、
他に類するものがないため、シナヌマエビそのものを指していることになります。
シナヌマエビ亜種の下位分類で、シナヌマエビ何々型とか何々集団とかであれば、
シナヌマエビ類でも良いでしょうが、おそらくそういうことではないでしょう。
「カワリヌマエビ属の一種」が嫌であれば「カワリヌマエビ類」が良いと思います。