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2016年11月12日はストレス限界で、衝動的に1人で採集に行きました。
1箇所目は愛知県です。クロダカワニナとチリメンカワニナが捕れました。
目的はミズゴマツボでしたが、簡単には捕れませんね。これではストレスが無くなりません。

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本当は来週に行く予定だった岐阜県へ。すぐに捕れました。この場所のことは後述。

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せっかくなので三重県へ。チリメンカワニナです。近くの川にはA型がいるのにB型ぽい。

東海三県という括り方は、散々話題になっているでしょうが、、無理があると思っています。
東海は京都から見た東の海で、主に東海道のことであって、岐阜県は海と東海道がありません。
また、岐阜県と愛知県は中部地方、三重県は近畿地方で、地方が違うものを一緒くたです。
そのため東海三県のことを、東海地方と呼ぶのも、どうかなと思っています。
トウカイナガレホトケドジョウの分布は愛知・静岡県。これはその通りです。
トウカイコガタスジシマドジョウの分布は三重・岐阜・愛知・静岡県。岐阜県が微妙ですね。
トウカイヨシノボリの分布は三重・岐阜・愛知県。こちらも岐阜県が微妙ですね。
こんなことが書きたい記事ではなかったのに、まだストレスが抜けていないのだろうか…。

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さて、本題です。2016年10月22日に淡水貝類研究会の第22回研究集会へ行きました。
その際に「論田川に生息する縦肋の多いカワニナの正体に迫る」という発表を拝聴しました。
こちらにも同タイトルがありました。同じ内容+αを発表されたのでしょう。
結論的にはタテヒダカワニナのようですが、私には発表中からイボカワニナに見えました。
そこで発表者の顧問に、親殻を見せて頂きました。やはりイポぽい。何となくコセイぽいのも。
ただ、クリーニングが確りし、生体の特長が掴み難い。そこで捕りに行くことにしたのです。

論田川(岐阜市)へ着き、適当に覗くと、ごろごろいる。手に取るとイボにしか見えない。
岐阜市は堅田漁港(琵琶湖北湖の沖島北側と推測)産のカワニナ類が、ホタルの餌として、
数年前まで大量に放流されていて、現在は問題視する指摘があって、中止したようです。
発表ではその堅田由来が生き残り、この川で定着しているのではないかとの推測でした。
堅田に捨ててある貝山は、何度か見に行きましたが、ここにあるカワニナ類は、
ほとんどはカゴメで、僅かにイボが混じり、タテヒダは見たことがありませんでした。
その時点で堅田から、タテヒダが岐阜市に定着するのは、考え難くなってきます。

発表では遺伝子解析で、タテヒダと近縁としていましたが、僅かに異なるようでした。
近縁であってタテヒダではない。それはイボではないだろうかという私の推測です。
また、この発表では同定の拠り所として、主に日本産淡水貝類図鑑(1)を利用していました。
この本のタテヒダの殻は縦肋数からオオウラで、生体の本栖湖産はハベと思われます。
更にイボは殻も生体もハベで、この本には1個体もイボが掲載されておらず、
解説文もイボとハベを混同している感じです。ようするに、教科書が間違っています。

岐阜市のカワニナ情報はもっと酷いです。
「岐阜市に生息する淡水産貝類」 2012年
図2-9はタテヒダとありますがイボ、図2-10はイボとありますがカゴメです。
Semisulcospira decipiens (Westerlund) タテヒダカワニナ
Semisulcospira decipens multigranosa Boettger イボカワニナ
Semisulcospira decipens reticulata Kajiyama & Habe カゴメカワニナ
この学名の書き方はおかしいです。タテヒダの亜種としてイボとカゴメがあることになり、
琵琶湖という同所に生息し、亜種関係が成立するわけがなく、イボとカゴメは、
decipens が不要です。また、亜種関係があると主張するのであれば、
タテヒダは Semisulcospira decipiens decipens と表記しなければなりません。
また、Boettger は属名を変更しているため、(Boettger) と表記する必要があります。
「岐阜市の自然情報」 2014年
上記の「岐阜市に生息する淡水産貝類」を基に作られたようで、同じところが間違いです。
「岐阜市版レッドリスト・ブルーリスト2015」 2015年
学名は正しく成っています。上記2つと同じ画像なのに、イボとカゴメが逆転しています。
この場合だとタテヒダはイボ、イボはカゴメです。カゴメは合っています。

教科書と岐阜市の情報が、こんな状態なので、高校生たちは間違って当然なのです。
ただ、タテヒダとイボは非常に近縁で、同種内の多様性かもしれないことは注意が必要です。
しかし、形態的にはタテヒダやイボと、区別できるものが、ほとんどなことも事実です。
記載はイボよりもタテヒダの方が早く、同種と見なさずに、イボの存在を認めるのであれば、
形態的に正確な同定をしなくてはいけません。それがこれまでの文献では出来ていません。
写真は論田川の個体ですが、タテヒダあれば次体層の縦肋数が、ここまで多くはありません。
また、タテヒダよりも螺層角が狭く、殻口が小さく、螺肋が強く、胎殻が大きいです。
これらは琵琶湖で何度も捕っているイボの特長に合致します。イボで良いでしょう。
但し、両種の模式標本を確認しているわけではないため、従来の定説による同定です。

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論田川の個体はほとんどイボでしたが、写真のように気になる個体も捕れました。
親殻形態はタテヒダやホソマキにも近く、琵琶湖で捕ったらイボと同定するかは疑問です。
タテヒダよりは縦肋が弱く、胎殻はやや大きく、何となくイボとの中間型のようにも見えます。
この個体がタテヒダであれば、論田川には多数のイボと、僅かなタテヒダが生息している。
そんな仮説も立ちますが何とも言えません。ビワメラニアの同定はこんなのが多いんです。
イボであろうがタテヒダであろうが、外来なのは間違いないため、対策が必要かもしれません。
とりあえず「論田川に生息する縦肋の多いカワニナの正体」の多くはイボが私の結論です。